道路の向かいに大きな本屋があって、
りゅうさんはそこに車を停めていた。

駐車場のすみの空いたスペースに停まっていた車は、
普通のシルバーのワゴン車だった。

ハイビスカスとか飾ってたりして、なんて考えていたんだけど、
車内もいたってシンプルだ。
なんでも、これはりゅうさんのお母さんの車らしい。

お母さんは電車通勤なので、
普段りゅうさんが使っているそうだ。

禁煙車って言われてるねんけどな、と言いながら、
りゅうさんは車に乗るなりたばこに火をつけた。

「おい、みーちゃんにさっきのこと謝れよ。失礼やって。」

助手席の直ちゃんが言う。

「ごめんな、みーちゃん。
なおがあんまりかわいいかわいいって写真見せるから、
ついつい口がすべってん。
ほんまは写真よりよっぽどかわいいで。」

「え、いいですいいです。そんな。ぜんぜん気にしてませんから。」

それより、かわいいといって写真を見せたという、
直ちゃんの行動のほうがよっぽど気になる。

「写メ、文化祭のときのやつ、見せてもらったで。
あれ、めっちゃかわいかったやん。な、なお。」

去年、高校の文化祭のとき、
クラスでお化け屋敷をやったときの写真のことだ。

田舎の高校だったから、そんなに派手なメイクはできなかったけど、
それっぽく見えるようにみんなで工夫してたら、
つい盛り上がって、みんなものすごく気味の悪い顔になった。

わたしは口裂け女の役で、ものすごい赤い口紅を
ふざけてぬりたくった。

楽しかったことをメールで伝えると、「写真送って」と返信が来た。

「ぜったいだめ」と断ったが、案外直ちゃんもしぶとく「見たいよー」
と返してくる。

しかたなく、写真の中で一番ましで、顔が小さく写っているのを送ったのだ。

なぜあれを見せる?

こんな話続けたくないので、必死で話題を変えた。

「それより、吉崎さんって直ちゃんの友達なんですか?お店の人?」

「おれ?おれは違うよ。学生や。」

「みーちゃん、こう見えてもこいつ、頭いいねんで。
神大生やから、勉強のことやったらきいたらええで。」

「こう見えてもってそれも失礼やなあ。
なあ、みーちゃん。なおになんか言ったって。」