「おばさん、元気やねんよな。」

「うん。多分な。」

「多分て。」

「もう二年会ってない。」

直ちゃんの声はいつもどおりだ。
冷静で、他人事みたいに話している。
前をまっすぐに見ていて、その表情からは何も読み取れなかった。

わたしの目に、また涙が浮かんできた。

「自殺しはったって聞いたけど、生きてるねんよな。」

「未遂やからな。」

実にあっさりと言う。

「…うそや。」

ひとつを肯定されると、あとのどれがうそで、どれが本当なのか
追求したくなってしまう。
知りたくもないのに。

「ごめんな。みーちゃん。
おれのせいでいやな思いしたんちゃう?
…おれは、みーちゃんが思ってるようなまともな人間じゃないから。」

直ちゃんが、やっぱりいつもの優しい声でそんなことを言うので、
我慢ができなくなって、ぐずぐず泣き出してしまった。

二人連れの酔っ払いがじろじろ直ちゃんを見て、「兄ちゃん、女の子泣かすなよ。」と通り過ぎる。

「直ちゃん、教えて。直ちゃんのこと、教えて。
わたし何にも知らんで、情けない。」

直ちゃんはしばらく考えてから、携帯電話をズボンのポケットから取り出した。

「りゅう、今からみーちゃんつれて帰るから…。うん。少し話そうと思って。もう一人分。頼むな。」

飯のしたくしてるから、と電話を切ってから言って、

「確かにこれは相当怪しいよな、考えてみれば。」と真顔になった。

わたしは、先日の話を思いだして、「うん。お嫁さんみたい。」と笑った。

「あんなうざい嫁はいやや。」と、直ちゃんもつられて笑う。

それから、5分ほど暗い道を歩いて、直ちゃんのアパートに着いた。