10分くらいしてから電話があって、「元町のどこ?」と聞かれたから、
大丸の前の交差点、と答える。

もう暗くなったアーケード街から直ちゃんは走ってきてくれて、
息を切らせながら、「こんなに走ったん久しぶりや」と言った。

「みーちゃん、どうした?何かいやなことでもあったんか?
教えて。」

額に汗が浮かんでいるので、ハンカチを差し出す。

やっぱりいつもどおりの直ちゃんだ。
心配することなんてなかった。

わたしはやっと安心して、「ううん。大丈夫。」と言った。

直ちゃんは、私の顔を心配そうにじっと見たけど、それ以上強くは聞かなかった。

「帰ろ。駅まで一緒に行こ。」

そう言って、手を握ってくれる。

「だいたいこの辺は、夜は女の子一人でうろうろせん方がいいで。」と言ってから、

ちょっと怒った口調になる。

「みーちゃんを泣かせるようなやつは、おれが許さんからな。」と言うので、
わたしは笑いながらそれを訂正する。

「違うねん。小学校のときの友達やで。女の子ばっかり。」

「そうなん?それで最悪やったん?」

直ちゃんがそう言うから、最悪だった理由を思って黙り込んでしまった。

直ちゃんもしばらく何も言わないで歩く。

このあたりのレンガの道は、震災のときに全部割れてしまい、復興するときに市民から寄付を募ることにして敷き直したものだ。
寄付金を出す代わりに、レンガに自由にメッセージを掘り込むことができる。
そこにこめられた思いを踏みしめながら、わたしたちは静かに歩いた。

駅が見える頃、直ちゃんが言った。

「おれの家のこと、何か聞いた?」

「…。」

「そうかなと思って。」

「…うそばっかりやった。」

「そうか。」