さすがに週末だけあって、人通りもおおい。
みんな楽しそうだ。

帰ろう。
うちへ帰ろう。

シャワーを浴びて、眠ったら明日もバイトだ。

朝起きたらきっと、今日のことは笑い話になっているはずだ。

そう考えるけど、どうしても何か納得ができない。

直ちゃんに会いたい。
会って、いつもみたいに笑ってもらいたい。
そんなんうそやで。おれがそんなことできるか。
そう、冗談みたいに言ってもらいたい。

携帯を握り締めて、迷ったまま、足が神戸駅のほうへ向かっていく。
ここからは二駅ほどしか離れていないから、
20分もあればついてしまう。

元町の交差点で、向こうから来たサラリーマンにぶつかった。

手から落ちた携帯を拾い上げて、
しばらく迷ってからボタンを押す。
ちょっとでいい。声だけ聞いて、うちに帰ろう。

直ちゃんは3コール目で電話に出た。

「直ちゃん、わたし。今、大丈夫?」

直ちゃんの電話の癖が、いつの間にかわたしにもうつっている。

「うん。今帰りよるとこ。
みーちゃんは?」

よかった。
直ちゃんの声はいつもどおりに優しい。

「わたしも。さっきまで友達とごはん食べててん。」

「あれ、そんな相手できたんや。楽しかったか?」

「ううん。最悪やった。」

直ちゃんは何か誤解してるみたいだけど、
わたしはあえてそれには触れずにおいた。

じゃあ、おやすみ。
それだけ言って切ろうとしたが、直ちゃんの声を聞いて思わず涙が出てしまった。
のどの奥でなる音が、電話の向こうにも伝わったみたいだ。

みーちゃん、どうしたん?何かあった?
大丈夫?

直ちゃんがあわてているのがわかる。

「大丈夫。何もないよ。直ちゃんの声聞きたかっただけ。」

「待って、今どこにおる?家か?」

家、と答えればよかったのに、
元町、と本当のことを言ったばかなわたしに、
明るいところで待っとき。そっちに行くから、と直ちゃんは言って、
電話は切れてしまった。