茶色のジャケットにジーンズという普通の服装なのに、
わたしの目には王子様みたいに見える。

周りの人も、こっちの様子をちらちら見ている。

「入学おめでと。」

と言ってから、直ちゃんは照れたように笑った。

はは、なんか恥ずかしいな。
そう言って、もうひとつ、紙袋を渡してくれる。

「これ、おれが焼いてんけど、よかったら食べて。」

紙袋は、直ちゃんが働いているケーキ屋さんのものだ。
直ちゃんが作ってくれたなんて、食べるのがきっともったいなくなる。

「ありがとう。うれしい。」

わたしがお礼を言うと、直ちゃんはにこっと笑ってから
留美ちゃんの方を向いた。

「お友達?」

「うん。同じ高校の留美ちゃん。」

「こんにちは。藤原です。」

留美ちゃんは、普段めったにしないようなにこにこした笑顔だ。
声もちょっと高いんですけど。

「三浦です。みーちゃん、えっと、伊藤さんとは昔近所に住んでて…、」

「お話、きいてます。」

留美ちゃんが、そこでわたしを見てにっと笑ったので、
わたしは顔が赤くなった。
留美ちゃん、いらんこと言わんでよ。
あせったけど、それはさらっと流して直ちゃんが言う。

「今からごはんに行くんやけど、藤原さんもよかったら…。」

直ちゃんってば。
ちょっとあせったけど、留美ちゃんはとんでもない、というように
首を振った。

「いえいえ、わたし、もうちょっと学校見ていくつもりなんです。」

それじゃあ、また、と言って、留美ちゃんはもう一度校門をくぐって行った。

留美ちゃん、ごめんよ。それからありがとう。

心の中で留美ちゃんにお礼を言っていると、
直ちゃんがとんでもないことを言った。

「一緒に来てもらえばよかったね。
実はこっちも一人連れがおってさ。」

えーっ。予想外。
というか、考えてもみなかったよ。

もしかして、彼女とか言うんじゃないだろうな。

心の中に、ぼんやり不安が沸いてくる。