留美ちゃんには、合格発表を見た帰りの電車で
直ちゃんのことを話していた。
へえ、それでこの学校にしたん?ときかれて、
ちょっと情けないような思いをしたことがある。

留美ちゃんは歴史の勉強がしたいらしい。
この学校には留美ちゃんの好きな分野のエライ先生がいるそうなのだ。

わたしは、とにかく直ちゃんのいる街に来たかった。
それはぜんぜん間違っていないと思うけど、
留美ちゃんの動機に比べるとちょっと恥ずかしい。

それに。

「うん。でもな、彼氏ってわけじゃないねん。まだ。」

まだ、なんて言って、わたしの意志を示してみる。

「えー、でもわざわざランチなんていいやん。
彼氏みたいなもんやん。
なあ、わたしも見に行っていい?会ってみたい。」

わたしがいいも悪いもいわないうちに、
留美ちゃんはどんどんわたしの前を歩く。

追いつくように足を速めながら、よくよくきいてみると、
留美ちゃんは直ちゃんのことをわたしの妄想かと思っていたらしい。
失礼な話だ。

妄想っていうのは変だけど、
すごくできた話だなと思って、と留美ちゃんは言った。

できた話かなあ。幼馴染をずっと好きっていうのは。

三浦直人、直ちゃんはわたしの3つ年上の幼馴染だ。
小さい頃からずっと仲が良くて、
わたしが小学生のときに引越しをしてからも
縁が切れてしまうことはなかった。

高校生の間はずっとメールのやり取りをしていたし、
わたしにとってはなんでも相談できる大切な相手だ。

サークルの勧誘を振り切って校門を出ると、
そこで直ちゃんは待っていてくれた。

兄は、「あいつは見かけだけはいい。」というが、
ほんとに直ちゃんは格好いい。

少し痩せ気味だけど、背が高くて、どんな服でもよく似合う。
やわらかい、目立たない茶色に染めた髪が少し伸びたみたい。
顔立ちだってすっきりしていて、
これはひいき目だろうけど、その辺のアイドルなんかよりよっぽどすてきだ。

その直ちゃんが、
小さな花束を差し出してくれて、わたしは倒れそうになる。