そこで、「ちょっとコンビニ行ってくる。」
といって、わたしはこの日のために買ってもらったピンクのジャンバーを羽織った。

「ほんならわたしも行くわ。」
と、真弓ちゃんもカーディガンを手に取る。

「ええねん。すぐやから。そこやし。」
コンビには角ひとつ曲がった向こう、5分くらいのところにある。
「気をつけてな」と、真弓ちゃんは鷹揚に送り出してくれた。

もちろん、コンビニに行くのではない。

走っていくのもみっともないと、頭では思うけど、
どうしても早足になってしまう。

やや息を弾ませて着いてみると、
はたして三浦の家には誰もいない様子だった。

春休みやし、どこか遊びに行ったのかな。
旅行だったら今日は帰ってこないかな。

そうも思ったが、せっかく来たのだし、しばらく待ってみることにした。

少し日が長くなったみたい。
夕日の陰が伸びて、夕餉のにおいがながれてくる、きれいな夕方だった。

こんな日は、海に落ちていく夕日がまるで梅干みたいに見える。
よく漬かったぶよぶよの梅干が、海面にとけていくみたいだったのを思い出しながら、
楽しい気分でしばらく待った。

夕焼けの色がまだ残っている向こうから、
直ちゃんは歩いてきた。

紺のパーカーのポケットに両手を突っ込んで、
視線を落としている。

背が伸びたなあ。

知らない人みたいに思えてためらったが、思い切って声をかけてみた。

「直ちゃん。」

顔を上げて、ちょっと目を細くしながら、直ちゃんがこっちを見る。

「…みーちゃん?」

覚えてくれていたのがうれしくて、
ついかけよってしまう。

「みーちゃん、どうしたん?一人?なんでこっちにおるん?」

直ちゃんが今度は目を丸くしながら矢継ぎ早に質問する。

母と来たこと、今日は小川さんのところで泊まること、
朝、めちゃめちゃ早くに電車に乗ったことなんかを一息に話した。