わたしが小学校にあがって一年目のことだった。

明け方に、どん!という音がして、わたしは目が覚めた。

寝ている布団の下から、すごい何かが押しあがって引いた。

本棚が揺れたと思うと、中のマンガの本がばらばらと床に落ちる。
机の上に出しっぱなしにしていたノートや鉛筆も全部床の上だった。

「兄ちゃん…!」

隣で寝ていた兄も起きだして、わたしのほうに体を寄せる。

兄にしがみついたとき、すごい形相で父が部屋に飛び込んできた。

「健司、美代子、大丈夫か?」

それからまた、大きな揺れ。

まだ外は暗い、寒い寒い冬の朝だった。
普段ならまだ目もさめない、布団の中でぬくぬくしているはずの時間だったが、
わたしたちはまたもう一度、眠る気にはなれなかった。

「地震やな。」

そろって階段を降り、一階の食事をするテーブルに家族が集まる。

食器棚が開いて、中の食器がずいぶんと飛び出していた。
棚は倒れかけで斜めになっている。

うちは流しのうしろの狭いスペースに食器棚を置いていたので、
ちょうど壁につかえて途中で止まっていたのだ。

「あーあ。せっかくそろえたのにもったいないなあ。」

そのときは、我が家の被害が一番だと思っていたのである。

少なくとも、この町内の数件の家で、同じように食器がわれたんじゃないか、
それは大変だ。
そのくらいの認識しか、そのときはなかった。

ぼやきながらも母が石油ストーブに火を入れると、
やっとみんなの顔が、ぼうっと暗い中で見えるようになった。

「電気つかへんなあ。」

「こんな大きいの、生まれてはじめてやわ。」

父とは母忙しそうだ。

「みー、次揺れたらテーブルの下にもぐるぞ。」と兄が言う。

その日の前日、この地方では珍しく
何度か地震があった。
そのときに担任の先生が教えてくれたのだそうだ。