ご主人は、おじいさんの跡を継いで会計士の事務所をしているそうだ。
うちの店も年度末にはお世話になってる、と母は言う。
先代さんはいい人やったけどなあ、と父がビールを飲みながら言った、
その意味がわかったのはずいぶんあとのことだ。

大人のいうところでは、「景気のええ」うちらしく、
直ちゃんのおばさんは、何度かわたしにかわいいリボンを買ってくれて、
髪をきれいに編んでくれたりもした。

おばさんの選ぶものは、上品でセンスのいいものばかりだ。

直ちゃんも、綾人さんも、いつもきれいな洋服を着ていたのを覚えている。

一度、直ちゃんがうちで泣いたことがあった。
兄と遊んで帰ってきて、洋服が汚れているのを母に言われたとたん、
しょんぼりして、それから下を向いてえっ、えっと泣き出したのだ。

中学生になった直ちゃんがうちに遊びに来たとき、母がこの話をするもんだから
直ちゃん、真っ赤になって困ってた。

子どもやから汚してもいいんやで、と何度言っても泣くもんだから、
とうとう脱がせて洗ってやることにした。
そうすると、やっとうれしそうに「ありがとう。おばちゃん」と笑ってくれてな。
ほっとしたわ。

あれはほんまにかわいかったで。
母に言われて、「ありがとうございました。」と恥ずかしそうに直ちゃんが言った。
その直ちゃんもすごくかわいかった。