直ちゃんとわたしが生まれて育ったのは、
神戸市でもかなり西のはずれの町だ。

海のすぐそばに国道と鉄道が走っていて、
そこから急に高台になる山の斜面に、びっしりと家が建っている。

わたしのうちは大通りに面した、お店がたくさん並んでいる一角にあった。

一階の通り側が理容店で、その裏と二階が生活をする空間になっている。

近所の人たちも同じように商売をしているということもあって、
お互い気楽に行き来する間柄であった。

だから、そこに同い年の友達がいればよかったのだが、
たいていが兄と同じかそれより上で、
わたしはいつもさりげなく邪魔者扱いされながら遊びの中に加わっていた。

直ちゃんのうちに行くようになったのは、兄が幼稚園にあがってからのことだ。

直ちゃんのうちは、同じ地区だけど、二つほど向こうの通りにある。
そこはお店なんかはあまりなくて、新しい、こぎれいな家がたくさん並んでいる場所だった。

幼稚園で仲良くなった兄が、友達の家に行くというと
仕事で忙しい母は、妹も連れて行けという。

親の前では一応うなずいたものの、二人になるととたんに横暴になって、
ついてくるなといわんばかりの早足の兄を追いかけて、
わたしは必死で歩いた。

今考えると、ずうずうしいにも程があると思う。

でも、直ちゃんのおばさんは、おまけでついてきたわたしを
とてもかわいがってくれた。

「うちにも女の子がいればよかったのに。」なんて言いながら、
我が家では見たことのないおいしそうなケーキを出してくれた。

わたしは直ちゃんのおばさんが大好きになった。

きれいで、いいにおいがして、うちの母とはぜんぜん違う。

おまけに言葉もこの辺りの人とは違っていて、
それがとても上品に聞こえるのだ。

専業主婦のおばさんは、ケーキを焼いたり、庭で花を植えたり、
今までぜんぜん知らなかった、絵本のような世界をわたしに見せてくれた。