洋服が半そでに変わった頃、バイトの帰りに留美ちゃんから電話がかかってきて、
今日泊まりに行ってもいい?と聞かれた。

就職活動でへこんでいたので、久しぶりに話ができるのがうれしくて快諾すると、
まだ外にいるんんだったら駅まで来てくれないか、と困ったように言われた。

自転車を駅のほうに向け、しばらく走ると、改札で立っている留美ちゃんの姿が見えた。

「留美ちゃーん!」

声をかけて手を振ると、ほっとしたように駆け寄ってくる。

「ごめんな、わざわざ。」

かばんを前のかごに乗せながら、並んで歩き出すと開口一番にそう言った。

「ええよ。どうせ帰り道やし。」

それよりごはん食べた?パンもらってきたけど食べる?と言うと、
サンドイッチある?と聞き返された。

あるで、今日はお客さん少なかったから、と言うとうれしそうに笑っている。

部屋に入ってコーヒーを入れると、
留美ちゃんが「ほっとするわ。」と言って足を伸ばした。

何かあったのかな、と思ったから、
残り物の玉子サンドを渡しながら聞いてみる。

すると、

「うーん。」と歯切れの悪い言い方で、

「最近なあ、駅に変な人がおるねん。」とすごく困った顔で留美ちゃんが答えた。

困惑、怒り、疲弊、そんなものが一緒になった、
微妙な表情だった。

「ええ?どういうこと?」

聞いてみると、春休みが終わる頃から電車でよく一緒になる男の人がいるんだという。
別段意識もせず、顔も覚えていなかったが、
あるときホームで声をかけられた。

まだたくさん人のいる時間帯だったから、それほど注意もせず、
その人が「よく一緒になるね。」などと言っていたのに適当に返事をしていたそうだ。

サラリーマン風の、スーツを着た男の人で、
おとなしそうな、まじめそうな感じの人に見えたから、
それからときどき挨拶をされても、会釈くらいは返していた。

それが、ここのところ、
家はどこ、だとか言いながら帰る方向へついてくるのだ、と本当に困ったように話す。