あほめ、と笑ってから、りゅうさんは、

「そやけど、実際大変みたいやで。」と少しまじめに言った。

就職が、ということだろうか。

「まあ、まだ時間あるし、考えたらええやん。」と直ちゃんが口を挟むと、

「それより、大阪に帰るの?」と留美ちゃんが言う。

そうなのだ。それが一番問題なのだ。

今住んでいるところは学生専用だから、学生でなくなったらいるわけにはいかない。
それに、学校も仕事もないのに、ここにい続けるわけにはいかないだろう。

「それやねんなあ。」

わたしは春雨を小皿にとりながら言う。

この楽しい時間に期限が切られていること、そしてその期限が切れるのがわたしが一番早いことが悔しい。

「それが問題やねん。田舎やし、帰りたくはないねんけど…。」

わたしがそう言うと、もっと違う理由やろ、とりゅうさんが目で笑っている。
おい、それは口に出すなよ。

わたしと直ちゃんは、また仲のいい幼馴染として付き合っていて、
わたし自身、それ以上を望みたいのか、このままでいいのか、わからなくなっている。
このままずっと仲良しのままでいられたら、それでもいいのかもしれない。

でも、直ちゃんに別の女性ができるのはやっぱりいや、というところで、
どういう風に気持ちを整理していいのかわからない。

それに、直ちゃんはまだときどきぼんやり携帯を見ていたりするから、
簡単に思い出をふっきることはできないみたいだ。

そんな微妙な関係を、一応は考慮してくれたみたいで、目を合わせただけでりゅうさんは何も言わなかった。

「寂しくなるなあ。」

直ちゃんがぽつりとそう言ってくれて、
その一言がわたしの心を決めさせた。

よし。誰も文句が言えないようにして、やっぱり神戸にいよう。

それは、以前のように不純な動機でもあったかもしれないけど、
強い自分になるための、最高のエネルギーでもあった。