「ええやん。適当にバイトでもして相手見つけて結婚すれば。」と、
りゅうさんはのんきなもんだ。

「なんやったらおれのつれ紹介したろか?
公務員になるってがんばってるで。」などと言う。

後期の試験も終わって、直ちゃんの部屋に集まったときだ。

そういえば、樹里ちゃんが公務員で次男の人と結婚したいって言ってたな、と思うと、
これはありがたい申し出なのだろうか、と考えてしまった。

いや、ちがうだろう。
そんな条件だけで誰かを好きになれるほど、人間は単純じゃない。
直ちゃんだって、あんな苦しい恋をしなくてもよかったはずだ。

「へえ、友達はまともなんやなあ。」と留美ちゃんが、鍋の中のキムチを取りながら言う。

その日は豚肉の入ったキムチ鍋で、一晩昆布を水につけて出したダシが味の秘訣なんだそうだ。
ほんと、まめなことである。

直ちゃんは何も言わずに、黙ってご飯を食べていた。

あれから、直ちゃんは新しいお茶碗を買い、わたしと留美ちゃんにも、「気に入ってくれるといいけど。」とひとつずつ選んできてくれた。

もちろん、3つともばらばらのデザインだ。

「悪いけど。」と、わたしは直ちゃんが選んでくれた子豚の模様のお茶碗をテーブルに置いた。

「わたし、結婚なんかせえへんから。」

当分、というのを付け加えるのを忘れてしまった。

なんだか高らかと宣言をしてしまったので、みんなびっくりした風でこちらを見ている。

「見得はるな。できへんの間違いやろ。」と、憎たらしいことをりゅうさんが言う。

「うるさいな。りゅうさんに言われたくない。」