部屋に入ると、りゅうさんが涙声で、

「なお、ごめん。ごめんな。」と頭を下げているのが見えた。

ちょうどドアを背にして座っていたのでわたしの姿は目に入らないようだ。
直ちゃんがわたしに気づいて、
人差し指を口に当てて、いたずらっぽく笑った。

もう一度、そっとドアを出て、
また入ったとき、りゅうさんはテーブルにもたれたままで、
眠ってしまっているようだった。

「寝てる?」と聞くと、

「うん。」と直ちゃんが答える。

のぞき込んでみると、叱られて泣きながら眠った子どもみたいな顔だ。

「子どもみたいやね。」と言うと、

「こんな悪どい子どもおるか。」と返ってくる。

それから、

「みーちゃんまでつき合わせてごめんな。」と言った。

「ううん。久しぶりに会えてよかった。」

「そうやなあ。前に会った時にはこんなことになるとは考えもせんかったなあ。」と言う。

また直ちゃんが黙ってしまって、
わたしも黙ってそばにいると、

「みーちゃん、ごめん…。」と、直ちゃんの手が体に巻きついてきた。
直ちゃんの方が身長も高いので、抱きすくめられたような形になって、
心臓がどきどきはねまわるので困ってしまった。

「ごめん。何もせえへんから…。」

わたしにとってはそれでももう十分なんだけど、
もちろん直ちゃんの言うことはわかったし、
直ちゃんが泣いているのもわかったから、
不自由に抱え込まれた手を精一杯伸ばし、直ちゃんの背中に回して、ぎゅっと力を込めた。

直ちゃんが抱いているこの体が、直ちゃんのそれよりやわらかくてあたたかいものであることを、少しだけ誇りに思った。