須磨の水族園だ。

わたしたちの町に住んでいる子どもは、学校やら子ども会やらの遠足で、
もう何度も訪れている場所だ。

館内には入らずに、裏手の海へ歩く。
砂浜になっていて、誰でも海に降りられるのだ。

りゅうさんが犬みたいにはしゃいで、波打ち際まで大またで歩いていく。

慣れない靴のせいもあって、少し遅れて歩くわたしに、直ちゃんがそっと近づいてきた。

「大丈夫?」

心のうちを知られているみたいでどきっとする。

直ちゃんはいつもそうだ。
人が困っているときや、悲しいときに、その気持ちを自然に察してくれる。

「疲れた?」

「ううん。歩きにくいだけ。」

「りゅう、ちょっと今日はしゃぎすぎやな。
なんか余計なことでも言うたんちゃう?」

当たり。

そうだ。直ちゃんに聞いてもらおう。

「あのな、」
と、話しかけたとき、りゅうさんがこっちを向いてわたしたちを呼んだ。

「おーい、こっち来いや。気持ちええで。」

はは、ほんまにあほやな、と直ちゃんがわたしに笑いかける。

「みーちゃん、行こか。」

「あ、うん。」

今度、二人になれるときにゆっくりきいてみよう。その方がいい。
わたしが自分を納得させたとき、直ちゃんが手を出してくれた。

それがあまりにも自然だったので、わたしも素直に手をつなぐ。

子どもの頃に戻ったみたいだ。

でも、直ちゃんの手はもう子どもの手じゃない。

大きくて、あたたかい、男の人の手だった。