ごめん、ごめんなさい、と章子さんは二回、直ちゃんに謝った。

「なにがごめんなんや?
謝るくらいやったらそんなこと言うな。
勝手なこと言うのもたいがいにしてくれ!」

勝手なのは自分だとわかっている。
おまけに、言ってるうちに感情が高ぶってきて、
格好悪いと思ったけど、ついまた語調がきつくなる。

情けない。

今までだって、ぜったいに泊まっていこうとしなかった章子さんを見送るときも、
忙しいから、また連絡すると言われたときも、
こんな風に怒ったりはしなかった。

気をつけてな、がんばってな、と言って、
章子さんの望むことは全部受け入れてきた。

それなのに、章子さんが泣きながら頼むことをきいてあげることができない。

「おれのこと、好きか?」

そう聞いてしまって、それが最後の質問になることを直ちゃんは悟った。

「きらいか」と聞けばよかった、と思った。
それならば答えはノーだからだ。

これまでも、何度か聞いてみたことはあるのだ。
ふざけているときに、抱き合っているときに、
「なあ、おれのこと、好き?」と。

すると章子さんは、「どうかな。」と答える。

そんならおれも章子さんのこと、好きじゃない、とすねてみたり、
好きと言ってくれるまでくすぐってみたり、
そうやって二人して開けないようにしてきた最後のとびらを、
自分の手で開いてしまったことを、すぐに後悔した。

章子さんが顔を上げてまっすぐ直ちゃんを見る。

それから、もう一度、

「ごめん。」と言った。