「何言うてるの。こんなおばさんにかわいいなんか言わんでええ。」

章子さんはまた、鼻をひとつぐすんと鳴らした。

そう言われても、出会ったときから独身のキャリアウーマンという風情でいる章子さんからは、月日がたってもその雰囲気が失われることはなかった。
おばさんではあるのかもしれないけど、その言葉は今ひとつ似合わないと思う。

「自分で言うたらほんまにそうなるで。
まあ、すぐにおれもおっさんになるからちょうどええ。」

そう言って、離さないままだった両手を強引に引き寄せようとしたが、
章子さんは頑固に突っぱねた。

「お願い。離して。」

「いや。」

「お願い。こんな顔、見られたくないねん。」

「どんな顔でもいい、ちゃんと見せて。」

「いやや。」

また、章子さんの目元に涙が浮かんできた。
自分だって泣きたい、と直ちゃんは思った。

「なあ。わかって。
わたしはこれからもう、ゆっくり年をとっていくだけや。
たくさん時間のある三浦くんとは違う。

一緒にいるわけにはいかへん。こんなの、やっぱり無理があるよ。」

章子さんは言うが、どうしてそんなことを気にするのか、
直ちゃんにはわからなかった。

世の中にはこれくらいの年齢の差のカップルだっているし、
隆司だってそれなりに認めてくれているのだから、
それでいいじゃないかと思っていた。

「なんでいまさらそんなこと言うん?
そんなこと、おれにはわからん。」

今度は涙が頬を伝って流れている。
ああ、この人を泣かせているのは自分だ、と思うと胸が苦しい。
だからといって、この手を離すわけにはいかないと、余計にきつく、指先が白くなるほど、章子さんの手を握りしめた。

「なあ、頼むわ。
…今、章子さん、疲れてるねん。
な、ゆっくりして、もう一回ちゃんと考えよ。な。」

「ちゃんと考えた。
だけど、もう無理やわ。」