淡々と話をして、それから不意に、章子さんが

「三浦くん。」と言った。

自分の高校生の頃を思い出しながら聞いていたので、そう呼ばれるとその頃に戻ったような気がした。

「い、いややなあ。その呼び方やめてって言うたやろ。
おれはもう生徒やないで。」

笑って雰囲気を明るくしようとしたが、うまくいかなかった。

「三浦くん。
もうやめよう。
もうな、あかん。
わたしには重い。」

章子さんは目を合わせずに言う。

暖房をつけているはずなのに、
部屋の中の空気が一気に下がった気がした。

今度も、もしかしたら、とは感じていた。
隆司に気づかれたときみたいに、章子さんは別れる話をするかもしれないとは思ってここまで来た。

だけど、こうやって話を聞いているうちに、
章子さんとその生徒には全く申し訳ないけれど、
おかげで二人の関係が深いものになったような気がしていた。

章子さんは、今まで困ったことを自分に相談してくれなかったからだ。

あの時とはちがう。

普通の恋人同士みたいに、たくさん会ったり、
一緒に眠ったり、外で手をつなぐなんてことはなかったけど、
それでも、二人でそれなりの月日を過ごしてきたんだから大丈夫、そう思えた矢先のことだった。

何がだめだった?
おれが重いって、どういうこと?

自問するが答えは出ない。

「なんでそんな話になるん?
関係ないやん。
それともなんか、おれが悪いことしたか?
おれがそいつをいじめでもしたか?違うやろ!」

思わず声高になってしまう。
章子さんと二人でいるときに、こんな大きな声を出したのは初めてだった。

「三浦くんは何も悪くない。
悪いのはわたしや。それは間違いない。」