ずいぶんと日が暮れるのが早くなってきた夕方、
放課後の職員室にその子がやってきた。

見ると、退学届と書いた紙を持っている。

「これ、もうこんなとこおってもしょうがないし。」などと言う。

一緒にいた学年主任と会議室に入って話を聞くことにした。

主任が聞く。

「こんなん急に持ってこられて、はいそうですか、って言えると思うか。」

彼も、章子さんのクラスで担当している授業があったから、その子の状況はたいていわかっている様子だった。

「ご両親はなんて言うてる?」

「親には関係ないですから。」

そう言った時点で、これが彼なりの助けを求めるパフォーマンスだとわかった。
本気でやめたいわけじゃない。

いや、やめたいのは本当だろう。
だけど、これほど人の目を気にする彼が、本当に高校を中退したいと思っているとは思わなかった。

不毛な話し合いがしばらく続いて、主任が一度中座して部屋を出た。

章子さんは、その子の正面に座りなおして、

「な、クラスのことやったら、わたしも一緒になんとかする。
もうすぐクラス替えもあるし、もう少しがんばってみたらどうや?」

「一緒にって何にもできへんやろ。先生には関係ないことや。」

「そやけど、今のままやったら、勉強だってできへんやん。」

友達もできへん、と言いたかったのをぐっとこらえる。

なんでも問題があればきっと解決する方法はある。
少しだけ笑ってみ。自分のことも、この学校のことも、
そんな皮肉っぽくじゃなくて、ちゃんと見てみ。
おもしろいことはたくさんあるで。