「そういう奴、おるな。」

日がかげってきた。
室内はまだ電気をつけていないので薄暗いが、それは気にならなかった。

章子さんが床に座っているので、直ちゃんも床に座りなおし、
目線を章子さんのそれに合わせるようにして話を聞いていた。

もっとも、章子さんはずっと目をそらすように伏せたままだった。

「おれでも一緒にはおりたくはないわ。」

「うーん。やっぱりそうかな。そうやなあ。」

「いらいらするもんな。男のくせにぐずぐずすんなって言いたい気持ちはわかるわ。」

などと、外見はあんまり男らしくない直ちゃんが言うので、
章子さんはやっと、少し笑った。

「おかしい?」

「いや、かわいい。」

「かわいい言うな。」

ほんまに、いつまでたってもこうやねんから。
おれだって、それなりにがんばってるねんで。

そう思いつつも、いつもと同じ気楽な雰囲気が二人の間に戻ってきたことに安堵し始めていた。

やっぱりみーちゃんの言うたとおりかな。
泣いてる顔見られたくないんかな。
そういう顔も見たいのにな。

そう思うとなんだかこのところの自分の考えがばかばかしくなって、
あごのラインで切りそろえられた、章子さんの髪に触れた。

すると、章子さんはすっと首をすくめて直ちゃんの手を離した。
直ちゃんは、こんなときにあかんかったかな、と、その程度にしか思わなかった。

だから、

「もうそういうの、やめよ。」と言われたとき、

章子さんが何か別のことと言い間違えたのだと思った。

「気がついとってん。
あの子を誰がいじめてるか。」

クラスに、何度言っても髪を茶色に染めてなおさない子たちがいて、
勉強は得意ではなかったが、話題の中心になるような存在だった。

授業中も、彼らは、その生徒が発言するとからかうようなことを言ったり、
廊下で周りを囲んだりしていることがあった。

ただ、その生徒は、「友達やから。」としか言わなかったから、
それ以上何も言うことができなかった。