直人くんに似てる、とふと思う。

あの子も、高校生の分際で、人生を悟りきったような顔をしていた。
最初の頃に見せていたぼんやりと空を眺めている姿を思い浮かべると、つい笑いがこみ上げてくる。

そんな子でも、今はしっかりやってるで、と思う。
もう、わたしの手なんかいらんくらいにな。

ただ違うのは、直人のやりきれない感情は彼自身に向かっていたが、
その子は常に周囲に原因と責任を求めることだった。

こんなところにいたら終わりや、などと言う割に、
自分を変えていこうというところはない子だった。

履歴書で大事なのは最終学歴なんやから、気になるんやったら東大でも入ればいい。
今からやったら決して不可能ではない、と章子さんは彼に言った。

言ったことにはもちろん自信がある。

受験なんて、しょせんは高校の教科書の範囲からしか出ない。

学校によって使う教科書に違いはあれど、
検定を通った教科書をきちんと勉強をしていけば、
マークシートのテストでいい点をとるのはそれほど難しいことではない。

東大は無理にしても、ある程度名前のある大学に入ることは可能だし、
現に卒業生からも何人か、それなりところへ進学していった生徒はいた。

そやから、がんばりや。
そう言うと、
「先生は気楽でええな。」と皮肉めいた口調で言われたのが気にかかった。

その子が、クラスで孤立するのに時間はそうかからなかった。

何かの毒を内に抱えていて、それが十分に消化できていない人間のそばにいると、
こちらまでその毒に犯されそうになる。

高校生はまだ子どもであるとはいえ、そういう人間からはみな距離をとりたいに違いなかった。

ただ、上手に距離をとってくれれば問題はなかったかもしれないが、
中にはその毒が気になって仕方がない生徒もいるようだった。

あまり運動神経のよくなかったその生徒が、体育の授業のたびにとても疲労して、
ぎすぎすしているのが目に見えるようになった。

それとなく担当の教師にたずねると、やっぱり、授業中も孤立していること、
体の接触に見せかけた悪意のある暴力が見られることを話してくれた。

見つけるたびに、やめろ、とは言うてるんですけどねえ、と、困惑気味だった。