それで気持ちがほぐれたのか、章子さんはぽつぽつ、起こったことを話してくれた。

去年3年生を卒業させた章子さんは、そのまま今年の1年生を受け持つことになった。

やんちゃで元気のいい子どもたちがたくさん入ってきたので、
最初は何かと気をもむことが多かった。

それでも、去年まで中学生だった生徒たちは、しだいに高校生活にも慣れ、
おとなしく授業を受けるようになった。

そんな中、クラスで一人、浮いている生徒がいることに章子さんは気がついていた。

まじめそうで、しかし明るい生徒で、とりたてて変わったところのないように見える子だったが、時々人を小ばかにしたような話し方をするのが気になっていた。

その学校は、学区内でも下から数えたほうがいいくらいの成績の生徒が集まっている。
だからといって、長年教師をやってきた章子さんはそのことと生徒の人間性には何も関係がないことを十分に知っていた。

成績でははかれない、すばらしい性格の子もたくさんいたし、
何より、中学のときはたいして成績よくなかった子が、こういう学校ではトップクラスになり、それで勉強に目覚めていくような子もいたから、
人生の転換点になるこの年代の子どもたちと接するのはなかなかに楽しいことだと章子さんは思っていた。

まだまだ君らの未来はまっしろなんやで、と、いつも新入生を見るたびに思う。

ところが、その生徒にとってはこの高校に入った時点で、人生の落伍者になったことが決定しているらしかった。

「こんなとこ、おってもしょうがないけど、高校で浪人するわけにもいかんし。」などと、友達の前でも平気で言う。

「受験のときに風邪ひいたんがあかんかった。あれさえなければもっと違うところいけたのに。」

そうは言うものの、願書を出す時点では風邪なんてひいてなかったはずでしょ、とは言えない。

それよりももっと、人生は確定なんてしていないこと、
ここでも学ぶことはたくさんあることを伝えたいと思った。