まともに会えないからこそ、好きなのが続いているのかもしれないと思ったけど、それは口にしなかった。
りゅうさんのせりふが続く。

最初から頭のおかしい奴やと思ってたけど、あそこまでいくと本物やな。

話しながらも手は止めず、今度はわたしのむいたじゃがいもを一口大に切り始める。

「おい、休むな、にんじんが残ってるで。」

わたしが急いでにんじんを手に取ると、また独白のような話が続いた。

「おれがな、最初に一人でオカンに作ってやったんはカレーやった。」

母子で暮らし始めて、りゅうさんは章子さんの家事の能力の限界をすぐに知ることになった。
遅くに帰ってきて、ご飯を炊いて、適当な惣菜を並べるだけで、せいぜいインスタントの味噌汁がつくのが関の山であった。

部活はしていたけど、勉強が主という学校で、それほど練習に打ち込むような先生もいなかったので、学校の帰りにスーパーに寄ることが彼の日常になった。

「おれは一度オカンに捨てられてるし、今度捨てられたら行くとこもない。
役に立ついうたらこれくらいしかなかったしな。」

章子さんが家を出たことを、りゅうさんはそう感じているらしかった。
章子さんのつらい気持ちも、子どもを愛している気持ちもわかっていたはずだけど、やっぱり捨てられたという思いは消えないようであった。

もちろん、捨てられたくないというだけではなく、
母の助けになりたいという気持ちもきっとあったはずである。

「ルーさえ入れればそれなりの味になるのがカレーやからな。
お前と一緒に作ろうと思ったらこれくらいしか思いつかんかったわ。」

そういう手元で次はにんじんが小さくなり始めた。

「なんでわたしと作ろうと思ったん?」

空いた手を洗いながらそう聞くと、

「なおのこと、ちゃんと知っとるのはおれとお前だけやからな。
おれらで迎えてやりたいなと思って。」と答えた。

「どういうこと?」

「多分あかんで。あれ。」

「あかんて?」

「そのままや。お前にとってはチャンスってわけや。」

「…。」

そんなことない、直ちゃんが悲しいのはいや、とは言えなかった。
先日の暗い妄想が頭をよぎる。

しかし、りゅうさんはそんなわたしの心のうちには気も留めないようだった。