「…こんなときに会いたいと思うのはおかしいんやろか。
迷惑なんやろか。
…おれは、何もできへんのやろうか。」

「…。」

直ちゃんが、明かりをつけてくれていることを真剣に願った。
もちろん、すぐに電気のスイッチをいれただろうけど、
暗い部屋でそんなことを口にする姿を想像するのはあまりにもつらいことだった。

と、同時に今まで抱いていた章子さんのイメージが突然に変容していくのがわかった。

今まで、想像していた章子さんは、
清潔で、姿勢がよくて、ぴしりとものを言う大人の女性だった。

それが、想像の中で、毒々しい魔法使いのような、崩れた雰囲気を持ったいやらしい女性に変わっていったのだ。

直ちゃん、だまされてるんじゃない?
章子さんは、最初から直ちゃんのことなんて好きじゃなかったんだよ。
ただの遊びだったんだよ。

直ちゃんみたいな人に愛される資格なんてない、
直ちゃんの気持ちをもてあそぶような人なんだよ。

不意に沸いてきた暗い感情が、
心の中いっぱいに広がっていく。

今までも人のことをきらいになったり、いやだと思ったことはあったけど、
ここまで卑屈で、醜い感情が自分のうちにわいてきたことはなかった。

苦しい、と同時に不思議にそれを冷静に見ている自分がいる。

今、直ちゃんにこのことを言ったらどうだろう。
傷ついている直ちゃんにつけこんで、彼の気持ちをくるくると動かしてみたい欲望がある。