章子さんが一人になるから、あまり家を開けたくない。
また連絡する。ちゃんと飯食えよ、と言って、りゅうさんは帰ろうとした。

「直ちゃんは、いないの?」と聞くと、

「あほ、なおは今仕事中や。」と言う。

そうだった。

でも、直ちゃんがこんなとき、章子さんを一人にするとは思えなかった。
りゅうさんがいるとはいえ、きっとそばにいてあげたいと思うはずだ。

地震のとき、わたしの背中を優しく抱いて、「大丈夫やで。」と言ってくれたのを思い出す。
大きくなった直ちゃんは、章子さんをそうやって安心させてあげるんだろう。

悲しかったけど、それが直ちゃんなんだから仕方がないと思った。

わたしが考え込んでいるのをじっと見て、やや迷ってから、

「オカンな、なおに会いたくないって言うてる。
なお、昨日もここまで来たけど、結局帰らせた。
あいつ、おれの首しめて暴れてたで。」

とりゅうさんは言った。

「そやからって、チャンス、とか思うのは時期尚早ってもんやで。」

そんなこと考えもしなかったのに、
逆に、そうか、チャンスか、と思う自分があさましいと思った。