留美ちゃんが夜、突然部屋にやってきたのはそんな折だった。

いつもは電話をくれたり、前もって予定していることが多かったのでびっくりした。

オートロックを解除し、部屋にあげると留美ちゃんは

「なあ、美代子、何か知ってる?」と、質問も突然であった。

「何が?」と言いながら、床に置いたままの服をさりげなくクローゼットにしまう。

「お茶いれるわ。」とテーブルのそばに座らせてカフェオレをふたつ入れた。

「ヨッシーさ、最近連絡とれんくて。」

留美ちゃんはりゅうさんのことをヨッシーと呼ぶ。

ヨッシー、留美ちゃんと呼び合いながら、二人でメールや電話をしているのをわたしは知っている。

社会科の先生を母親に持ったりゅうさんは、
「テレビでクイズ見てても授業みたいになるからまいる。」という生活を
子どもの頃から送っていた。

歴史好きの留美ちゃんとは時々小難しい話をしているようだ。

その留美ちゃんとの連絡も途絶えたときいて、不安がさらに大きくなる。

「わたしも。直ちゃん、ぜんぜんメールくれへん。」

もしかして嫌われたのだろうかとも考えたけど、
だからといって不意に連絡を絶つような直ちゃんではないはずだ。

わたしは一度、彼を信じることができなかった。
そういうことはもうしないつもりである。

「いつもうざいくらいやったのに、おかしいと思ってん。」

留美ちゃんがマグカップを握って言った。

「ほんでな、昨日電話したってんよ。出えへんから、十回くらいかけたった。」

今日もじっくりかけたおしたろ、と思ってたところ、
夕方バイトに入る前に電話がかかってきた。

いつになく疲れた声で、それでも「久しぶりやな。おれがいないとそんなにさみしいか。」と生意気にも言ったそうだ。

いつもどおり、あほか、無理すんな、とやり取りがあって、

「ごめん。しばらく会われへん。なおもまいってるから、みーちゃんによろしく言っといて。」とまじめな声になる。

「どないしたん?」と聞くと、

「そうか、お前知らんのやな。世界中が知っとるような気がしてたわ。」と言って、
少しだけ、事情を話してくれたのだそうだ。