女の子が遅くにごはんを食べたらあかんね、と気を使ってくれるものの、
直ちゃんが帰ってくるのは午後九時を過ぎることが多くなっていた。

「こいつらがそんなん気にするか。」とりゅうさんは言う。

腹が立つけど、直ちゃんが持って帰ってくれるケーキを喜んで食べているわたしたちには何も言い返せなかった。

「これ、ちょっと見てくれる?女の子はどう思うのかなって。」と、
直ちゃんがかばんから一冊の大学ノートを取り出した。

おれもみるー、とうるさいりゅうさんを押しのけるようにして二人で覗き込むと、
そこには何枚か、きれいな女の人のイラストがあった。
そばにかわいらしい王子さまが立っているものや、手をつないでいるものもあった。

「これ何?」と聞くと、コンテストに出すケーキのデコレーションなのだと教えてくれた。
こういう人形をマジパンで作ってケーキに乗せるのだそうだ。

コンテストは、働き始めて四年未満の部、四年以上の部がある。
今回挑戦するのは直ちゃんのひとつ上の先輩だが、
直ちゃんも手伝いをさせてもらえるのだという。

来年は自分も出たいしな、とぎゅっと口元を引き締めながら言う表情が頼もしい。

わたしたちは、「かわいい!」と言いながらページをめくる。
「お前らなんでもかわいいですませるな。」とあきれられるけど、
かわいいものはかわいいんだからしょうがない。

女の人の顔が静かに微笑んでいるものが多くて、
きっとこれが章子さんなんだろうな、と思った。

「もっときわどい方がええんとちがう?」と、自分の母親だと知ってか知らずか、
りゅうさんはのんきに言う。

ほんま、あほは平和でええな。

最後に、今までと少し違う、小さな男の子と女の子が背中合わせに座って眠っているイラストがあった。