実家で過ごす最後の夜に、兄の部屋へ行った。

なにやら携帯で電話をしていたみたいで、「しばらく待っとれ。」と言われた。

ベッドに腰掛けて見ていると、
「あかん。妹が来た。明日かけるわ。…妹やて。…はあ?今帰ってきとるの。」と、
わたしのせいでひと悶着あったみたいだ。

「生意気に。彼女できたんや。久しぶりなんちゃうん?」

「お前に言われたくないわい。
わざわざ来るってことは、三浦にふられたな。」

うるさいわ。

「そんなん違う。ただ、兄ちゃんは直ちゃんのことどう思ってるんかなと思って。」

「どうって?別に普通やで。だいたいもう10年くらい会ってないのに。」

兄はいぶかしげながら、妹の幼い恋愛に何か異変が生じたことを悟ったようだった。

「まあ、しばらくは勉強に専念したらどうや。」と、
彼の口から初めて勉強をすすめる言葉が出てきた。

「違うって。ただな、小学校のときの友達が、あんまりいいように言わへんから。」

幼い頃のわたしは直ちゃんを疑いもしなかったけど、兄の目にはどう写っていたか、
少し興味があった。
みんなが言った直ちゃんの中学時代の話をすると、兄は笑いに笑った。

「三浦がそんなんできるか。どうせ付きまとわれて、断りもせずにふらふらしてたんやろ。自業自得じゃ。」

それが事実なだけに、びっくりして、

「なんでそう思うん?」と聞くと、

「子どもの頃から大人の顔色みてるようなところがあったからなあ。
あんまり自分の意見言わへんし。」と言う。

ふうん。そうなのか。

ゴリラみたいな外見で、脳みそもその程度だと思っていた兄が、
意外に鋭いことを言うので見直してしまった。

これも直ちゃんのおかげやな、と納得して、

「ヤケ食いすんなよー。」という兄の声を背中に、
自分の部屋に戻った。