「直ちゃんってときどき信じられんくらい性格悪くなるよね。」

と、開いてないコーラの缶を手に取った。
振り回してからあけてやろうか、なんてことまで考えてしまう。

「なんで?」と無邪気な顔の直ちゃん。

もしかして、確信犯?この人。

「りゅうさんなんか好きになるわけないやん。」

「なんで?」

あ、ぜったいそう。ほんと、いやだ。
普段は気にしない年齢の差なんだけど、ときどきこうやって直ちゃんは3年ばかり多い人生経験を逆手に取る。

「なんでって。」

「何?」

もういい。本気モードで行くって決めたし。

「だって、わたしが好きなのは…。」

「うん?」

「…知ってるくせに。」

「みーちゃんの口からききたい。」

直ちゃんはすました顔でこっちを見ている。

おい、顔、赤くなるなよ。

「直ちゃんが好き。ずっと、直ちゃんのことが好き。」

遠くで波の音が聞こえる。
もうすっかりあたりは暗くなって、ときどき海と海岸の間の道路を車が通るのが、
そのライトの動きでわかった。

直ちゃんはじっとわたしをみて、それから、「ありがとう。」と
体にしみいるような声で言った。

「おれも、ずっとみーちゃんのことが好きやった。」

悲しいことに、それは過去形だった。

「そやけど、みーちゃんみたいないい家の子に、おれみたいなんが手を出すわけにいかんしな。」

「いい家って。直ちゃんのうちの方が…。」

お金持ちやし、お母さん美人やし、と言いかけて口をつぐんだ。
たとえそうでも、うちの中は寒々しい北風が吹いていたんだから。