「直ちゃん、元気出して。」

わたしは思わずそう言った。悲しんでいる直ちゃんの姿を見るのはいやだ。
そんな、恋愛に苦しむ顔は章子さんの前ですればいい。
二人の間ではきっとそれは苦いチョコレートみたいに溶けてしまうんだろう。

でも、わたしの前ではだめ。
わたしは溶かしてなんてあげられないもの。

「直ちゃん、かっこいいから。」と、少々会話の流れを変えてみる。

「え?」

「もう、ぜんぜん自覚ないもんなあ。
わたしが章子さんやったら、直ちゃんみたいなかっこいい人と付き合ってたらぜったい秘密にするもん。
もったいないもん。」

あんまり論理的ではなかったけど、こういうのは気合が勝負だ。

直ちゃんはあっさりわたしの気迫に飲まれてくれて、今度こそ楽しそうに笑ってくれた。

「そうかなあ。そんなにかっこいい?おれ。」

「直ちゃんが言うたらいやみや。りゅうさんなんか自殺もんやで。」

「なあんや。あいつと比べられるくらいやったらたいしたことないな。」

「失礼やで。」

一通り笑ってから、直ちゃんが少し眉を寄せながら言う。

「ところでみーちゃん、りゅうはどうなん?」

「どうなんって?」

「いや、あれ、あんなんやけど、頭いいし、いい学校行ってるし、
いや、でもみーちゃんをあげるわけにはいかんな。でもでも、おれの知っとる中では一番いい奴、と思わんでもない気もしてる。」

はあ、そうくるか。

もうこうなればやけっぱちも本気モードで行くしかないな。