すると直ちゃんは、今度は明るい声で、

「章子さんのこと、びっくりしたやろ?」と聞いてきた。

これには迷わずに、「うん。」と答える。

「はは、軽蔑した?」と、直ちゃんは笑いながら言う。

目が真剣なくせに、おびえているくせに、なんでそんな言い方するの?

わたしは出来る限り優しく微笑んで、

「そんなわけない。びっくりはしたけど、でも、いい話やと思った。
ちょっと悔しいけど、すごいロマンチックな話やと思ったで。」と言った。

少しやけっぱちだったかもしれないけど、明るく言うことができたので、
まさに「自分で自分をほめてやりたい」と思った。

直ちゃんは一瞬泣き笑いのような顔をして、口を手で押さえた。

「いい話やった?」と、手の平の下から言うので、

「うん。直ちゃんらしいと思った。章子さんもきっと素敵な人なんやろうね。」

そう言うと、今まで見たことのないようなきれいな笑顔で、「うん。」と言った。

男の人にきれいだなんておかしいと思うけど、本当にはればれとしたきれいな笑顔だった。
その顔を見て、わたしは心臓を冷たい手でつかまれたような息苦しさを感じたが、
なんとか表情には出さずにいられたと思う。

泣くな!今日は泣くな!

直ちゃんが、「ありがとう。」と、笑顔のままで言う。

「みんなに反対されたし、怒られたし、間違ってるって思ってた。」

ほんとはわたしだって反対したい。
でもそれは、直ちゃんの恋愛が間違っているからじゃない。
取り戻したいからだ。

それは自分のエゴだとわかっているので、えへへ、と笑いを返すしかなかった。

「もっと早くみーちゃんに聞いてもらえばよかったな。
そやけど、章子さんはあんまり人に知られたくないみたいやし。」

わたしはいっそ、一生聞きたくなかったくらいなのに、
直ちゃんってときどき無神経になるな、と少し腹が立った。

「誰にも言うなって言うし、高校のも、専門学校の友達にも言うてへん。
…ときどき、このまま別れたら何にも残らんで、おれの夢やったみたいになるんかなって考えることがある…。」