【那奈side】


公園のベンチで1人丸まって座って私は先輩のことを考えていた。


この公園で初めて先輩に会ったこと。


その時も今みたいに1人で泣いてたっけな。


あの時先輩が声をかけてくれてなかったら……


そう考えたら今の私はいないんだろうな……。


うつむいている状態で少し作り笑いをした時、私はビックリした。


『よぉ、まだ泣いてんのか?』


誰かが私に声をかけてきた。


顔をみたわけじゃなく、一瞬だけだけど隼人先輩かと思ってしまったことに身体がビクッってなってしまった。


でもそれは隼人先輩なんかじゃなくて、聞き覚えのある声で身体が恐怖で震えてしまっていた。


あの人だ……。


階段でぶつかっちゃった人だ。


私を追いかけにきたんだ……。


謝りもしないで逃げてきちゃったから追いかけてきたんだ。


『おい、なんとかいえよ』


男が迫ってきている。


どうしよう……。


恐怖で頭がいっぱいだった。


私はこれから何かされるかもしれない……。


そんな気がして動くことができなかった。


ーーーッチ。


舌打ちをした相手の行動1つでビクッとしてしまう。


声は出なかったけど頭の中で必死に助けを求めていた。


(隼人先輩助けて……)


だがそんな思いも届くはずも無く、無言の状態が続く。


頭の中にはこんな時でも隼人先輩のことでいっぱいだった。


そんな時だった、衝撃の言葉を聞いたのは……


『いつまでもグズってんじゃねぇよ。泣いても誰も喜ばねぇぞ』


その言葉を聞いたとき、私の中で時が止まったようだった。


言い方は同じじゃないけど、初めて会った隼人先輩に言われた言葉と重なった……。


“いつまで泣いてるのかな? 泣いてても誰も喜ばないよ”


その言葉がきっかけになったのか、不思議と私の恐怖心が消えた。


それどころか、身体が勝手に動き始めた。


うつむいていた顔をあげてベンチから立ち上がり、そのまま自分でも驚いたけど、その人の後ろ姿が隼人先輩と重なって抱きついてしまっていた。


そのあとのことは何故かよく覚えてなく、気づいたら先輩のことを話していたみたいで、今はその人に手をとられてどこかに連れて行かれていた。