いつの間にやら門下生たちは居なくなっていた。


「ははっ、ボサボサだ」


そう言ってカラカラと先生は笑う。


「笑わないでくださいよ。髪は女の命ですから」


私は袴の裾をくいっと持ち上げた。


「すまんすまん、雪の髪は本当に綺麗だな」


普通に聞くとお世辞に聞こえるこの言葉も不思議とこの人だと本心に聞こえる。

いや、多分本心なんだと思う。

上手いお世辞を言える程器用な人じゃないから。


私の高く結われた漆黒の髪が風に靡く。


「ふふっ、ありがとうございます」

「あ、そうだ。トシに会いに行ってやってくれ。今日は此処に居るからな。俺はちと稽古をつけてくる」

「わかりました」

「じゃあな」


嶋崎先生はそう言うと、私の頭をぽんぽんと撫でて去っていった。