……だったのに。


 「お許しください……」


 そう言い残して、最期に振り返った姫の表情は、悲しみに満ちていた。


 涙を流しながらも、冬悟と再び巡り会う道を選んだ姫。


 そして生まれ変わり、記憶をなくしつつも再び冬悟と巡り会おうともがいていた。


 ……悲劇はそれだけでは終わらず。


 姫の両親や、養育者であった安藤夫婦までも、冬雅への責任を感じて次々と自害して果ててしまった。


 有能な家臣の死。


 それは福山家にとっても、大きな損失となった。


 人材面だけではない。


 さらに冬雅を苦しめたのは、果てしなき罪悪感。


 「弟君の許婚に懸想した挙句、殿はたくさんの人たちを不幸にした」


 周囲の者たちの、声なき声。


 人の口には、いくら権力者とはいえ完全に戸は立てられなかった。


 その後の福山冬雅は。


 人が変わったように、慈悲深い君主になったと称された。


 拡張政策は中止し、ひたすら領内の繁栄に心を配り、後の福山家の発展に尽力した。


 拡張政策を中止。


 今までのやり方を見直すというよりも、上昇意識を失くしたのだった。


 やる気を失った。


 全てがむなしく感じられた。


 富も権力も栄光も、何もかもが虚栄だった。


 むなしいだけだった。


 真に望んだものは……手をすり抜けていった。