弟を見殺しにした。


 月光姫との仲を引き裂き、嫌がる姫を我がものとした。


 権力で周囲を懐柔し、姫を脅し、その身を奪った。


 姫はあきらめて、身を委ねた。


 時の流れとともに、姫のかたくなな心も徐々に解き放たれ始めた。


 ……だがそんな日々は、突如として終止符が打たれた。


 冬悟への思慕やまなかった姫は、冬悟との再会を期して、立待岬より秋の海にその身を投じた。


 「月ー!」


 あの日、月光姫を永遠に失った朝。


 姫は冬雅の手をすり抜けるように、崖から身を投じた。


 冬雅は追いかけたが、あと一歩のところで間に合わず。


 姫は秋の津軽海峡へと消えていった。


 その身は二度と浮かび上がらなかった。


 一人取り残された冬雅は、死ぬほど後悔した。


 「……こんなつもりではなかった」


 こんなはずではなかった。


 ただ、姫がそばにいてほしかっただけなのに。


 愛してしまっただけなのに。


 どうしてこんなことになってしまったのだろう。


 (愛されたかった)


 強引に冬悟との仲を引き裂いて、我がものとした姫。


 当然、冬雅のことを愛してなどいなかった。


 だが月日が流れるにつれ、憎しみの度合いも薄まり。


 いつか穏かな日々を手にすることができるようになると信じていた。