身分の低い者たちにも、分け隔てなく接し、慕われ。


 その華麗なる容姿で、城の女たちを虜にして。


 生まれもった施政者としての才覚も確かなもので、時には冬雅を驚かせるような提案をしたり。


 冬悟が次期当主になれば福山家は長らく安泰であろうと、誰もが信じてやまなかった。


 誰もが冬悟を愛していた。


 蝦夷地のどんな長い冬をも乗り越えていけるような、その優しい笑顔。


 ……冬悟は冬雅が持っていないものを、数多く持ち合わせていた。


 人間的な魅力は、弟のほうが上であることを冬雅は、認めざるを得なかった。


 それゆえつらかった。


 嫉妬した。


 しかしそんな感情を、表沙汰にはできなかった。


 なぜなら冬雅は福山家第三代当主として、誰も並び立つことのできない存在でなければならなかったから。


 「あいつさえいなければ」


 ふと頭の片隅に浮かんだ本音。


 池に落ちた朝露のように、その波紋はたちまち拡大していった。


 冬悟さえいなければ。


 誰にも言えない劣等感に苛まれることもなくなる。


 月光姫を手に入れられる。


 ……そんな浅ましい欲が、人間として許されない罪に身を染めていった。