いや、それだけではあるまい。


 今になって圭介は認めざるを得ない。


 (俺は……、福山冬雅は嫉妬していた。冬悟の存在に。あの穏かで幸せそうな笑顔が、羨ましかった。ただそれだけだったはずなのに……)


 自らのプライドを守るため。


 (俺は、かけがえのないものを失ってしまう結果になった)


 先代福山家当主の嫡男として生まれ。


 三代目として家督を継承すべく、幼き頃より教育を受け。


 誰よりも恵まれた環境の下、大事に育てられ。


 豊かな領内の富を十分に享受し。


 全ての者たちに敬われ、かしずかれ。


 都から公家の姫を正室として迎えることにより、中央でも一目置かれる存在となり。


 家督を相続後、豊な富をバックに朝廷や有力大名に貢物を献上し、福山家三代目として認められ。


 ……何もかも恵まれた人生だったはずなのに。


 心はいつも飢え乾いていた。


 物足りなさを感じていた。


 それに引きかえ、次期当主と目されている腹違いの弟は。


 地位も身分も、はるかに劣っている存在にもかかわらず。


 いつも幸せそうに微笑んでいた。