「……」


 ただ音を垂れ流しているテレビ。


 音声は何も、圭介の耳には届かない。


 テーブルの上に置かれた、飲みかけのワインボトル。


 床の上に転がった、空っぽのワイングラス。


 部屋の中、一人きり。


 しばらく無言のまま、今見ていた夢を思い起こしてみた。


 リモコンを押してやかましいテレビを消した。


 部屋を包み込む真夜中過ぎの沈黙。


 その静けさは、今の圭介にはこの上なく残酷なものだった。


 今の自分。


 「福山冬雅」だった頃の自分。


 意識が重なる。


 体の奥底に眠っていた記憶が、夢の中で呼び覚まされた。


 覚醒した思いは……救いようのない後悔と罪悪感、そして叶えられなかった愛の、砕け散った冷たい欠片。


 圭介の頬を、涙が伝う。


 とめどなく涙が溢れ出す。


 (あれが、俺の前世……)


 疑いようもなかった。


 潜在意識ゆえに、夢を見てしまっただけとは到底思えない。


 先ほどの夢の中の福山冬雅は、肉体も精神も圭介そのものだった。