「騒ぎ立てては、領内に動揺を与える。私は明日の朝一番に福山城に戻る。他言は無用だ」


 冬雅はごく近しい側近たち以外には、この事実を伏せていた。


 そして翌朝、密かに福山城へと舞い戻った。


 「殿、冬悟さまはこともあろうに、この赤江に謀反を呼びかけてまいったのですぞ」


 冬雅の顔を見るなり赤江は、こう告げた。


 周辺の有力者たちに謀反に同調することを呼びかけた書状も、押収されていた。


 用意周到。


 (赤江はあらかじめ計画して、冬悟を罠に嵌めたのだな)


 冬雅は直感した。


 冬悟は陥れられたのだと。


 だが直筆の書状が証拠として挙がっている以上、放置しておくわけにはいかない……。


 「嘘です! 冬悟さまが謀反だなんて」


 大沼から馬で駆けつけてきた月光姫が、冬雅に訴えた。


 「兄弟は最も近くにいる、最も油断できない敵。……それが乱世の常識ではないか?」


 「殿と冬悟さまは、母違いとはいえご兄弟ではないですか。肉親の言い分をもっとお聞きになっては」


 「涙を流すほどに、冬悟を想うのか。……そなたの出方次第では、審議をじっくりやってもいいのだが」


 冬雅は冬悟の助命と引きかえに、月光姫の体を要求した。


 月光姫は冬悟のためならばと、一瞬あきらめかけたが、


 「震えて嫌がる女を脅して抱くのは、風流ではない」


 冬雅は考え直した。