……毎年恒例の、大沼方面視察の時期となった。


 はるか福山城を離れて。


 月光姫を同行させ、この隙に手に入れてしまおうと冬雅は目論んだのだが、それを察知したのか正室も温泉保養のため同行すると言い出した。


 公家出身の正妻には頭の上がらない冬雅。


 この地で姫を抱くのは不可能だと、あきらめざるをえなかったのだが。


 ……今回、側近の赤江が留守居役を名乗り出たのが、冬雅は少し気になっていた。


 「殿の留守の間、福山城をお守りいたします」と。


 冬悟にも留守居役を任じていた。


 月光姫を大沼まで連れて行き、その地で我がものにしようと企んでいたので、冬悟に邪魔されないよう城に残しておいたのだ。


 (なぜ赤江までも……?)


 冬雅は赤江が、何か恐ろしいことを企んでいる予感がした。


 だが見て見ぬ振りをしていた。


 (月光姫を手に入れるためならば、私は……)


 罪に手を染めることも厭わなかった。


 やがて冬雅の予想は的中した。


 赤江からの急使が大沼の地に駆けつけ、冬悟の謀反の知らせを届けた。


 (赤江の仕業だ)


 冬雅は察したが、もう後戻りはできない。