「では殿、あとは我々にお任せください」


 冬雅の意向を受けた赤江が、腹心たちを集めて作戦会議を始めた。


 弟の婚約者を奪うことに対して、罪悪感とは無縁ではないのだが、いざとなれば家臣が勝手にやったことだと反論すればいい。


 圭介は、いや福山冬雅は軽く考えていたのだ。


 (そうだ、我が娘)


 一方的に異母弟から女を取り上げるのは、当主としての自分のイメージが悪くなるとも冬雅は計算した。


 何か交換条件で見返りを与えなければ。


 冬雅には正室、側室の間に未だ一人の男子もいなかったものの、正室との間には十歳の娘が一人いる。


 今後まだ男子誕生の可能性はあるとはいえ、今のところこの娘に婿を迎えて、跡を継がせなければならない可能性大。


 さもなくば福山家は断絶してしまう。


 一番近い血筋の者は、異母弟の冬悟。


 母を苦しませたけしからぬ側室から産まれた弟とはいえ、能力もあり容姿にも恵まれ、家臣からの評価も高い。


 そのような事情もあり、あまり好きではない異母弟なのだが、家督は冬悟に継がせるしか手段はない。


 娘と結婚させて、それと同時に次期当主の座を約束させるのが、最もスムーズな方法。


 (この手を使えばいい)


 福山家次期当主の座。


 これをちらつかせれば、冬悟は首を縦に振るだろう。


 次期当主になるための、冬雅の十歳の娘との政略結婚。


 それを理由として掲げれば、月光姫を奪い取っても問題はないだろう。


 次期当主の座を与えれば、冬悟は反対しないと冬悟は甘く見ていた。


 人間の心をを軽視していた。


 愛という名の絆の堅固さを。