「まだ正式に婚約が成立していないのならば、私の側室に迎えても何の不都合もあるまい?」


 冬雅は酔っていたのか気が大きくなっていた。


 そして若かりし頃の、果たせなかった初恋の記憶に想いを馳せていた。


 まだ家督を継承する前、狩りの最中に遭遇した可憐な村娘。


 心惹かれたものの、支配者としての教育しか受けてこなかった冬雅は、娘をどう愛していいのか分からず。


 もてあそんで傷つけることでしか、想いを伝えられなかった。


 ところが京の公家との縁談に差し障りがあると危惧した城の者が、冬雅と娘を引き裂こうと画策。


 娘は下郎に集団で乱暴され、命を落とした。


 冬雅はひどく後悔したが、後の祭りだった。


 失くしたものは、二度とは取り戻せない。


 その後つらい気持ちを抑えたまま公家の姫を正妻として迎え、家督を相続し、北海道南部の豊かな地の領主として満ち足りた日々を過ごしていたはずなのに。


 どこか満たされない思い抱えて生きていた。


 それが何なのかずっと分からなかったのだが。


 月光姫を見た時、冬雅は目を奪われた。


 叶わなかった初恋の相手に似ていたのが、第一印象。


 あの村娘に瓜二つの姫。


 桜の精のように可憐な姫。


 冬悟にいつも幸せな表情を与えている姫。


 ……冬悟を羨ましいと思った。


 姫を手に入れて、自分も満ち足りた日々を送ってみたいと願った。