……異母弟である福山冬悟が、許婚(いいなづけ)である姫を初めて冬雅および重臣たちに披露した。


 そして婚約の許可を、冬雅に求めてきた。


 公家(くげ)の娘との婚約話を蹴ってまで、地元の姫を娶りたいと願う異母弟を最初は、酔狂な奴とあざ笑っていた。


 しかし実際に、月光姫と名乗った許婚の姫を見てみると。


 冬悟がこの姫を愛する理由が分かった。


 まるで桜の精のような姫だった。


 そして姫を見つめる時の、冬悟の優しいまなざし。


 幸せに満ち溢れた表情。


 当主である自分に一生屈服せざるを得ない、身分の低い側室から生まれた弟。


 生まれも生き方にも、歴然とした差があるはずなのに。


 いつも弟の方が幸せそうに見えるのは、なぜなのだろう。


 恵まれている自分よりも、弟の方が満ち足りた日々を送っているのはなぜなのだろう。


 いつも嫉妬に苛まれているのは自分。


 当主としての権限を行使して、冬悟の大切なものを奪ってしまいたくなる衝動に駆られる。