圭介はぎょっとした。


 赤江という名、聞き覚えがある。


 「殿、やはり酔われているのでは? それとも月姫(つきひめ)さまの美しさに酔われましたかな?」


 「月姫だと?」


 「月姫さまは先ほどより、弟君の冬悟さまとともに、庭を散策しております」


 (どういうことだ……)


 圭介は混乱した。


 自分の指先を見つめた。


 すると着物の袖が目に入った。


 さっきはTシャツ姿で居眠りしていたのに、いつこんな着物に着替えたのだろう。


 しかも見た目も肌触りも、かなり高級そうな……。


 そして頭には、髷(まげ)が!


 自分が今、見ている世界。


 体験している世界。


 それはまさしく、約四百年前の福山城内。


 側近である赤江に、「殿」と呼ばれる存在。


 つまりそれは。


 (俺は……、まさかあの)


 圭介の意識は、第三代福山家当主である福山冬雅(ふくやま ふゆまさ)の意識と一体化していた。


 (俺が見ているこの世界。それはかつて、福山冬雅として見つめていた世界……)


 今日は花見の宴らしい。


 異母弟である福山冬悟(ふくやま ふゆさと)が、許婚である月姫、すなわち月光姫はじめて伴うという。