「五十嵐さんじゃん。」
教室に行く途中、名前を呼ばれて振り返ると遠
藤正樹がいた。
「どうも。」
「昨日、奈津ちゃんとは結構喋ったけど、五十嵐さんとは喋んなかったよね。」
「はあ、」
「五十嵐さんのことも名前で呼んでもいい?」
危うくどうぞと言いかけて、奈津のことを思い
出した。
「せっかくだけど、ごめんね。男の人から名前を呼ばれるのあんまり好きじゃなくて。」
今考えたデタラメだけど。
「もしかして奈津ちゃんのこと?」
ギクリとなる。
「どうしてそうなるの?」
平静を保ちつつ尋ねてみると意外な答えが返っ
てきた。
「奈津ちゃん、俺のこと好きでしょ。見てて分かるよ。顔が良くて、勉強と運動がそこそこできるってだけで好きになっちゃう子。たくさんいるよね。正直言って苦手。中身何にも知らないくせに。」
「…」
彼のことを否定するつもりはない。むしろ、そ
の気持ちはとても良く分かる。
「五十嵐さんも同じでしょ?」
心を見透かされたように言われた。
「でさ、いちいち女の子を振ることって大変なんだよね。それで良いこと思いついたんだよね。」
「それはどういう意味?」
「俺と付き合ってみない?それに結構、五十嵐さんタイプなんだよね。」
「…悪いけど、ごめん。」
「えー?こんなイケメンと付き合えるなんてそうそう無いと思うよ?…いや、五十嵐さんはありそうだけど。」
「興味ないし…そろそろ行くね。」
つまらないなあって声がした気がしたけれど、
無視して教室に帰って行った。