爽快な夏の日差しが照りつける休日の午後。
周りの家々は窓を全開に開け放ち、扇風機や冷房機など、様々な機器を駆使して尚、暑いと汗だくだくで唸っているというのに。
そんな周りの家々とは一画を期する“普通”ではない家が一軒だけあった。
カーテンは全て閉め切られ、扇風機どころか、冷房機具の一つも備えられていない。
それどころか、部屋の中にはこたつ、ストーブなど暖房器具が備え付けられていた。
無論つけてはいないが、あるだけでより一層暑さを醸し出す。
そこに一人こたつに入ってケータイを弄る少女。
長袖長ズボン。
手には“手袋”。
それも毛糸でできた指先だけでる手袋。
長い黒髪を括ることもせず、無造作に伸ばし。
彼女はこたつに潜り込む。
誤解しないでいただきたい。
彼女は決して寒がりなどではない。
ただ“片付けるのがめんどくさかった”だけ。
そう、彼女は物すっごいめんどくさがりなのだ。
彼女の名前は佐伯美保。
命令、指図、束縛大嫌い!
だけど生まれつきの超めんどくさがりから命令されないと何もしないのだ。
それこそ、指を一㎜動かすだけでもめんどくさいと感じるほど。
故に、どんなに暑くても、寒くても自分からは何もしない。
死ぬほど腹がへっていても極限まで我慢し、限界を越えても微動だにせず、次第に空腹を過ぎてお腹が痛くなり、痛みも通り越して吐き気がし、最終的にはあまりの空腹で倒れても自分からは動こうとしない。
そんな生活に慣れてしまったのか。
こんな猛暑の中、カーテンを閉め切っているというのに彼女は汗一つかいていない。
食生活も極端に偏っているため、食べるときは(人に(作って)もらった場合のみ)物凄く食べるが、食べないときは本当に何も食べない。
本来の彼女は少食ですぐに飽きる性分なのだが、いっぱい与えられると吐いてでも全てを食い尽くそうとする。
彼女のモットーは貰えるものならなんでも貰っとけ。
相手から『ほしい?』と聞かれれば素直に『ほしい』と言える。
『あげる』と言われれば素直に『ありがとう』と言える。
ただし、自分から『ちょうだい』などとは絶対に何があっても言えない。
病的なまでの人間嫌い。
そんな彼女は今日も部屋に引き籠り、何気無く一日を過ごす。