社会人2年目の春。
二年前に専門学校を卒業し、地元を離れ県外の病院に医療事務職員として就職した私“黒澤 優希”は少しずつ今の職場の環境にも慣れ、それなりに充実した毎日を過ごしている。

今日も午前中の仕事を終え控え室の方で昼食を食べ、午後の仕事開始まで携帯のゲームをして時間を潰していると控え室入口から声を掛けられた。




「黒澤ー。今日仕事終わったらご飯食べに行こうよ!」



「えー?・・あんた今日は彼氏と会う予定があったんじゃなかったの?」



同期の真咲が片手にコンビニ袋を提げてやってきた。私はゲームをしている手を止めて真咲の方を見た。すると真咲は眉間に皺を寄せて「彼氏ぃ~?」と少し低い声を出した。



「あ~だめだめ今はその話はやめておこう。イライラがまた再発するから。」



「(また喧嘩か・・・。)ヤケ酒とか私お酒そんなに強くないから遠慮したいんですけど。」



「そんなこと言わないでよ!他に頼める人なんていなんだよー!黒澤だけなの!無理してお酒を飲めとは言わないから!」



ねーーーおーねーがーいー!!と腕に絡んできた同期に呆れ、今夜は何時に帰してくれるんだろうと思いながら仕方なく承諾すると



「やったーー!!黒澤は暇人だと思ってたのよーーー!!じゃーまた仕事終わったら連絡するね!!」



と、失礼極まりない発言を残して真咲は出て行った。



「別にいつも暇ってわけじゃ・・・。いや暇だけど・・・。」



誰もいない控え室で私はボソッと呟いた。


自慢じゃないが私は生まれてこの方彼氏がいたことがない。今年で23歳を迎えるが悲しいことにお付き合いというものをしたためしがない。
浮いた話が今まで出たことがなかったためか、最近実家の母親から連絡が来るたびに彼氏はできたか?と言われる始末。あまりにもしつこかったので仕事が忙しくて彼氏なんか作る暇がないなんて言って済ませたが・・・スイマセン暇ならめっちゃくちゃありました。去年なんて先ほどの真咲に誘われて合コンにも参加したが誰ともそういう話になることありませんでした。(真咲はその合コンで先ほどの彼氏と出会った。)まぁ・・一応連絡先を教えてほしいと言われて交換はしたが会話が続かなくて途中からお互いに連絡をしなくなったパターンである。




「(まっ・・今はとりあえず仕事に専念するってことにしておこう)」



そうだそうだ。そうしよう。慌てる必要なんてどこにもないのよ優希。と自分に言い聞かせて時計を確認すると午後の仕事開始が迫ってきていたため荷物を片付けて控え室を後にした。