雨が上がると、病室から七色の虹が見えたんだ。
『渚!虹!』
すると涙目になりながら渚はみつめて「綺麗…」と言った。
「真紘と見れて良かった…。
やり残した事…あとは…」
『?』
「真紘…、私にキスして…?」
渚は七色に輝く虹から目を俺に向け、そっと目を閉じた…
俺はいったん虹を見つめてから、渚にキスをした。
もうこれが最後になる…-
渚の目から再び涙が溢れた…
右目からだ…
“右目から流れたら嬉しい時”
前に渚はこう言っていた。
唇を離して渚の頬に手を当てる。
『嬉しい?』
「あたりまえ!
もうやり残した事ないよ…」
涙ぐむ渚の涙を指で拭った。
だめだ。
渚がいなくなる…
そんな気がしてならなかった。
2人で消えゆく虹をみつめて、手を握り締めた。
そう、これが渚と見た最初で最後の虹だった…。
「真紘は笑っててよ…」
『え…?』
その日、渚が涙を流しながら言った。
どうして笑わなくちゃいけないのか、俺にはわからなかったんだ。
渚が消えてしまうかもしれない世界で、笑う事なんてできない。
「私、真紘の笑顔大好きだから。
だから、その笑顔を無くさないで」
俺の頬に両手をくっつけて、大粒の涙を流していた…
なんだよ…
これが最後みたいな顔して…-
そんな顔するなよ。
「近い未来、真紘を好きになってくれる子ができて、その子に真紘の笑顔をちゃんと見てもらいたい」
『何言って…』
「悔しいけど、渚にとって真紘の幸せが私の幸せなんだから」
そう言った渚の笑顔が忘れられない。
自分の事より、人の事を第一に考えて行動する渚を見て好きになったんだ。
一人ぼっちなんて決してほっとけないタイプだった。
渚がいるだけでみんなが笑顔になれていたんだから。