そんなある日、渚はこんな事を呟いた…
「虹の下に行けると思う?」
『えっ?』
虹の下…?
そんなの行けるわけ…って言おうとした。
けど、言えなかった。
『行けるんじゃないかな…』
「真紘は優しいね…。」
そう答えた渚の表情は太陽の陰で、しっかり見る事が出来なかった。
渚が質問してくる時は決まって、辛い時だ。
言い終わると悲しそうな顔をするんだ。
「虹が見たい…」
『どうして虹にこだわるの?』
「虹を見て笑顔にならない人なんて
誰もいないと思うから…」
そう言って、俺を見て笑ったんだ。
抗がん剤で髪が抜け落ちて、ニット帽を被ってもまだ笑顔でいたんだ。
辛い表情は俺には一切見せずにいた。
でも、俺が病室を出ると必ず渚は声を上げ泣いていた。