12歳の正夢

人に言えない程の、心の傷を負った優湊は、12歳の時に、不可思議な夢を見る。

とある遊園地で、知らない30代前半の女性が、やけに、優湊と似ていた。

そして、その女性の子供らしき優湊より、年上の少年と少女がいる。

何故か、その得体の知れない、家族連れと優湊が、和気あいあいと、楽しく会話しているではないか。

そんな夢を、毎日のように見る優湊。

「変な夢ばかりを、それも同じ夢を見ているから、一度、お父さんに、相談して見よう。」

そう、思い立った優湊は、さっそく、起き立てのお父さんに、奇妙な夢の話のいきさつを、話し出した。

それを聴いた優湊のお父さんは、
「もしかしたら、お父さんとお母さんが離婚する前、遊園地に何回か、行ったことがある。その時の記憶が、フラッシュバックしたんじゃないか。」
と、淡々と答えた。

その表情に、当時、思春期真っ盛りだった繊細な優湊を、気遣うべき所が無かった。

父親らしく、なだめるのが、優湊の理想の父親像であった。

最低でも、その思い出したくもない、裏切った母親と兄姉を、優湊は、許すことが、
出来なかった。

この一件から、父親への猜疑心や、家族愛を、極端に嫌い、信じなくなった優湊。

またしても、優湊にとって、恨みの籠った涙を流す時期を迎えることになる。

本音では、母親に逢いたい優湊。

それを、素直に上手く伝えられない優湊でもあった。

その難しい御年頃で、優湊は、自分を産んでくれた、最愛の母親を恨み続けることで、最愛の母親への愛情を、示したかったのである。

そして、父親には、男手一つで、育ててくれた恩を感じつつも、父親には、最愛の母親を、自分から奪ったことに対する恨みが、この正夢で、芽生えてしまった。

何故なら、優湊は、ショック性記憶喪失が原因で、母親と兄姉の記憶も、消えてしまっていたからだ。

それが12歳のこの正夢から、徐々に、その母親と兄姉の記憶が、元に戻り始めた。

嫌な記憶なんて、戻らなくても良かったのに。